トイレの神様‐いいえ、ただの野次馬です‐
「にしても、あたし以外の女に痕付けられるなんてね」
「痕なんてねぇだろ」
「じゃあ、その腕は何?」
「これは……ぶつかっただけだよ」
隣でやいのやいのする村尾と愛奈。
指摘したのはエアホッケーの時の痣。
村尾を助けるべく、向かいに座る森田が話題を変える。
「そーいえばさ! 浪瀬の今着てる服って、流行ってんの?」
「俺?」
「ついさっきまで、同じ服着てた奴と居たんだぜ」
流れ弾に当たった浪瀬。
「そうなの? 見ず知らずの人とお揃いなんて、恥ずかしー」
「かのイケメン浪瀬のファッションセンスもその程度ってことね」
何故か女子から批判を受けていた。
で、あるはずなのに、浪瀬は口角を吊り上げる。
それはもう、他の4人に見られない片側だけ、器用に。
「浮気相手と激しい遊びして痕付けられる間抜けよりいんじゃね?」
「やっぱりその痕、遊んだ時のものなのね!」
「ちがっ、違わないけど、でも違う!」
女子の意識は浪瀬のファッションセンスから彼氏の浮気へと戻る。
やるねぇ。
と、思わず感嘆の息が漏れた。
「そっちこそ。フードコートに山本と加悦けしかけたのお前だろ」
「たまたまだよぉ」
「だから、ぶりっこのえの格好してたんだな」
「ほんとにたまたまですよ。ちょうどショッピングモールの雑貨屋にいる所を見つけたから、教えてあげたの」
「お前のその強運がこええよ……」
「えへへー」
私はぶりっこの余裕を見せる。
隣の痴話喧嘩は熱を増し、店を追い出されるまで続いた。
同席していた私と浪瀬までもが追い出されたのは、少々納得いかないところでもありましたが、そろそろ帰りたいと思っていたところでしたので、これ幸いと帰らせて頂きましょう。
後ろから、逃げ遅れた浪瀬が助けを求める視線を寄越してくれますが、通行人を盾にして躱します。
こうして、私は自宅へ。
浪瀬は説教の二次会へ行く事を余儀なくされた。