トライアングル~上司とやくざと後輩と~(仮)

 国道沿いにあるファミリーレストランは平日といえども午前11時にはサラリーマンや主婦でそこそこ客が入っている。

 その一角に、どこにでもいるような3人は腰かけていた。

 ソファに1人でかけているのは、俺1人。春だが季節感のない黒の薄いセーターにジーパンがいつものスタイル。ついでにインテリメガネもかかせない御年40歳のバツイチだ。
      
身長は180もあり、年のわりに老けこまなかったせいか、この年になっても、16も年下の女性に好かれている。それだけじゃない。会社に勤めていた頃は、既婚の時ですらあれやこれやで誘いは頻繁にあった。もちろん離婚をしてからは、どこから聞きつけたのか、更に増え、捌ききれずにどうでもよくなってきたくらいだから、恵まれている方だろう。

しかし、メガネをとった顔が、まさかの「のび太顔」でも喜んでくれるのは、この加藤くらいしかいないかもしれない。

 その加藤は俺に対面して、大人しく腰かけていた。どんなに忙しくても必ずうまく駆けつけてくれる、女性。そういう女性は作ろうと思えばいくらでも作れるが、こんなに気が置けるのはこの加藤が初めてだった。

長い髪の毛は肩から背中までカールされており、入社当初から美人な大人の印象だが、一度会話を交わせば表情からは、第一印象とは違う無邪気さがとれる。

 更にその隣に腰かけているのは男性。3人の中で一番若々しい長谷川 一哉(はせがわ かずや)はまだ23歳。薄い紫のカーディガンの下はスリムの黒いジーパンで、肌の色は白く、細身ながらも同じくらいの長身である。

「長谷川から聞いたと思うけど、会社立ち上げるんだ」

 加藤は目の前にあるメニューに目もくれず、俺のメガネ奥の真剣な眼差しを見つめ返した。

「って、え?」

 加藤は隣の長谷川の顔を見た。

 長谷川は俺の方を向いて、柔らかく「僕何も言ってません」と笑った。

「あれ? そう……。まあそういうことなんだよ。もう辞表は出してる。俺、今月末に会社辞めるよ」

「僕も辞めます。来月中に」

「えっ!! えっ!?」

 加藤はあまりの驚きに一瞬、腰を浮かしたが、すぐに戻し、2人の顔を素早く見比べた。

「実家を継ぐというのとはちょっと違うけど、まあ、なんとかいけそうでね。人員募集してるわけ」

「えっ、てっ…………」

 加藤は俺に視線を戻し、セリフを探しながら困惑している。

 俺はというと、その視線を逸らすと、テーブルの上に散らばったメニューに手を伸ばした。

「一緒に来るかどうかは、加藤さん次第ですけど」

 長谷川も、早くも興味は食事に移ったのか、左手の腕時計を確認し、日替わりランチのメニューを取る。

「えっわっ、わたっ、しっ…………」

 言葉に困りながらも、すぐに覚悟できるだろう、と高を括って上目使いで射抜くように見つめてやる。

だが、口から出たのは、

「わっけわかんない!!」

 の一言だけだった。

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