きみに会える場所~空の上ホテル~
そこで見たものは
最初に目に入ったのは、やっぱり絨毯だった。

小さく流れている音楽。いつもの音楽。

ああ、空の上ホテルだ。

やっと来れた。息をほっとついた拍子に、目の縁に残っていた涙がぽろっとこぼれた。

あわてて手の甲でぬぐう。・・・・・・私、いつもはこんな泣き虫じゃないのになあ。



レイ、いるかな。今度はなんて言うかな。「またお前かよ」って、悪態つくかな。

ドキドキしながら小走りでフロントに向かった。



「あれ、おかしいな」

フロントには、誰もいなかった。私はうろうろとその辺を歩き回った。

そして、エレベーターの前に立っているレイを見つけた。誰かと話をしているようだった。

一瞬、声をかけるのをためらった。レイの横顔をじっくりこの目に焼き付けておきたかった。

レイのすっと通った鼻、とんがった耳。きりっとした目。にこやかな口元。

誰と話してるんだろう。サキさんかな?

声をかけようと口を開いた時、レイが動いた。

レイの腕が、誰かをぎゅっと抱き寄せた。長い髪が見えた。

私はその場で石になったようにじっとしていた。動くことができなかった。

レイは、見知らぬ誰かのほほにそっと口づけをした。そして見知らぬ誰かの耳元で一言二言何かをささやいた。

私は、目を見開いたまま、一連の動作を見ていた。全てをこの目にじっくりと焼き付けてしまった。

・・・・・・こんなことなら、さっさと声をかけるんだったなあ。

私って、馬鹿だな。









< 75 / 192 >

この作品をシェア

pagetop