診察室の密事 【TABOO】
嘘つきな私たち

「先生?手、震えてるよ?」


二人だけの密室は、甘ったるい空気で満ちていた。


ククッと笑いを堪えながら、この男はまた余裕の表情で私を見つめる。

その眼差しが熱くなるほどに、聴診器を持つ右手が震えた。



「ねぇ、大丈夫なの?」

「だ…大丈夫じゃないわよ!何度も言うけど、今回のコンサートツアーは延期にするべき……」

「だから、俺のことじゃなくて。先生が」


私の言葉を遮って。
長い指先がそっと、バカみたいに熱くなった頬に触れた。


鍛え抜かれた胸の筋肉を見せつけられて、誰が平静でいられるだろう。

逞しい体とは正反対に、女の私も嫉妬するほど美しい顔が、ひたすらに憎らしい。

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