あの子





ひよりチャンはいつも、膝に黒い布を巻き付けている。

俺はサッカー部だったから、それが何のためにつけるのか知っている。

けど、クラブを続けなかった理由とその布を付ける理由は密接してるから、あえてスルー。



「…帰らないの?」
「ひろくんこそ」


沈黙が続く。

ひよりチャンは変わってるな。

女子は大体俺を呼び捨てる。
なのに、名前に君付けて、小学生か。




「俺は放課後デートなの」



もう終わったけどね。


ジョークなのに、笑わない。

ひよりチャンは、謎だ。




「ひろくんは、泣いたこと、ある?」

「なに、いきなり?………あるよ、女の子に振られたときとか。殴られたときとか」



どうしたんだろう。

いつもと雰囲気が全然違うな。


ひよりチャンは窓の外を見つめる。

その目線の先は、クラブ棟。



「あたし、ないんだ」
「へー、凄いね」
「……でも、最近は涙もろいの」


ナニソレ、矛盾?

この子、謎過ぎて面白いな。






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