ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜

 その時、当主のキングスリー氏が室内の上座に立って挨拶を始めた。

「メリークリスマス。皆さん、本日はようこそ。年に一度の聖なる日を当家で楽しんでいただきたいものです。それでは、ただ今当家にご滞在しておられる高貴なお客様、ウェスターフィールド子爵閣下をご紹介しましょう」

 おお、という声とともに拍手が起こった。こんな田舎に貴族が来るのは珍しいことだったからだ。

 落ち着き払って悠然と椅子から立ち上がり一礼したのは、間違いなくエヴァンだった。

 ローズは、ハッと息を呑んだ。心臓が急に激しく打ち始める。

 そう、どうして思いつかなかったのだろう。彼がこの村にいるなら、他に滞在先があるだろうか。

 傍で、女達がほうっと感嘆のため息をついているのが聞こえる。

 長めの黒髪をきれいに流し、黒の正装に身を包んだ彼は、完璧な紳士だった。回りの田舎紳士達がたちまち霞んでしまうほど。


 挨拶が終ると楽隊の音楽と共にダンスが始まった。しきたり上、身分の高い者から踊る。

 エヴァンはすぐ近くで期待にはちきれそうになっていたキングスリー家の長女、ローズより一つ歳上のメアリーに会釈すると、手を取って優雅にワルツを踊り始めた。

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