ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜
「何かあったんですか?」
そのとき傍らから声がした。
少し離れたところにプラチナブロンドの男が静かに立っている。
馴染みの、人を見透かすような落ち着きはらった眼差しに、エヴァンの緊張が少し解けた。
「来ていたのか、カーター」
「つい先ほどです。何度もノックしましたが聞こえなかったようですね。あなたがそんなに夢中になるとは、もしや例の……?」
「そう。ローズマリーの行方がわかった」
「では……、仕方ありませんね」
カーターと呼ばれた若い男はため息をついて、小脇に挟んだ書類を抱え直した。
「また出直すことにしましょう。個人的には、たった一人のお嬢さんのためにそこまで時間をかけられるお気持は、理解に苦しむところですが……」
「とにかく、明朝一番に出発するよ」
エヴァンのダークブルーの瞳に暗い炎が揺らめいた。ゆっくりと椅子から立ち上がり、断固とした口調で相手の言葉をさえぎる。
「……執事に伝えておきますよ」
男は立ち去り際、振り向いてにこやかに微笑みかけた。
「ご幸運をお祈りします」