ウェスターフィールド子爵の憂鬱な聖夜

 何が何だかわからずにいると、扉が開きさっぱりした衣服をつけた看護婦が水差しを持って入ってきた。

 ローズの目が覚めているのを見て、嬉しそうに声を上げる。

「お目覚めですか。子爵様がどんなにお喜びになることでしょう」

「ここは……どこ?」

 なぜか、弱々しい声しか出ない。

「キングスリー様のお屋敷です。お隣が子爵様のお部屋ですわ。あなたのことをとてもご心配されて、ご用の時以外はおそばにつきっきりでしたよ」

 彼女は同情のこもった優しい声で答えた。

「閣下がこのお屋敷にあなたをお連れになった時、あなたはひどいお風邪で衰弱していたんです。とても熱が高くて、丸二日も意識が戻らなくて」

「……そんなに?」

「子爵様は今、この家の皆様とご昼食中です。じきお戻りになりますわ。ですが、急にお起きになったり、あれこれお話にならないように。まだお身体が回復していませんからね。それではあなたのお食事を持ってきます」

 それだけ言うと、若い看護婦は部屋を出ていった。

 では、あれはすべて現実のことだったの?

 ローズは記憶をたどり始めた。パーティから帰るなり下宿のベッドに倒れ込んだ。とにかく寒くて寒くて……。後のことはよく覚えていない。誰かがやって来たような気がするけれど。

 そのとき、再び扉が開いたので、はっとする。今度はウェスターフィールド子爵その人だった。
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