今ここにいる

━━━━━

改札を通り過ぎると、タバコを片手に背中を丸めた彼の姿が見えた


よそ行きとは思えないジャージ姿


たった一週間…されど一週間…


どんなに会いたくても、どんなに触れたくても、この日のために毎日頑張ってるのに


可愛く見せたい

もっと愛してほしい


そう思うのはいつも私だけなんだ


大好きなブランドの店で一目惚れしたワンピ着て、それに合わせるミュールを買うために三軒もハシゴした


それなのに


こうして寝癖のついた彼と並んで歩くと、余計に惨めになる


お洒落なレストランなんて到底無理で、いいとこファミレスかと思ったら


脇目もふらず彼のアパートに着いてしまった



変に勘の鋭い彼のことだから、私の出掛けたいオーラに気付いてる



『なぁ機嫌直してくれよ』


…どうせいつも口ばっか



『そんなに怒ることじゃないだろ』



…ちょっとは困ればいいんだ


ほんとうは抱き付いて、彼のねこっ毛にキスしたい


それを必死で堪えた



『…っ…』



耳元で、私の名前を呼ぶ愛しい声



後ろからきつく抱き締めてくる腕


どんなに暴れても無駄な抵抗だってわかってる


だって大好きなんだもん


胸が苦しくて


伝えたい言葉と


わかってほしい言葉が


一気に溢れた






・・・・・・・・・・・・・・・・・・〆
< 6 / 23 >

この作品をシェア

pagetop