ふくらはぎの女(ひと)【完】

一人になった途端、

胸の鼓動がどんどんと

響き始めた。

私は明らかに

緊張していた。


「あ」

そして受け付けに

保険証を預け

待合室のソファーに

座った瞬間。

母の声を聞いた

気がした。


「娘子ちゃん、

ごめんね」

亡くなって一年以上経つ

今でもたまに、

最後の夜に

母が遺した言葉が、

ふいに耳に響く時がある。

もともと体が丈夫な方では

なかった母は、

小さな病気がきっかけの入院で

みるみる体中のバランスを

崩していった。

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