◇桜ものがたり◇

「祐里は、生まれながらにして神の御子なのじゃ。

 わしが教えなくとも、神の森に受け入れられておる。

 桜河家には悪いが、祐里こそが神の守なのじゃ」


「お爺さま、神の守は、冬樹叔父さまでございます。

 私ではございません」

 満足しきった八千代に、祐里は、真剣なまなざしで訴えた。


「それは、神の森がお決めなさることじゃ」

 八千代は、祐里の言葉を遮るように言い放つ。


「いいえ、お爺さま。

 冬樹叔父さまをしっかりとご覧になられてくださいませ。

 お爺さまのおこころ次第で、

 冬樹叔父さまは、神の守に相応しゅうなられます」

 祐里は、必死になって冬樹を庇い、八千代へ意見をした。


「そなた、わしに意見をするのか」

 八千代は、先代から神の守を継承して以来、

 何人からも久しく意見をされたことがなかった。

 八千代は、驚きながらも、 はっきりとした意見を持った祐里を、

 ますます後継者として、相応しいと感じる。


「お爺さまの優しさに甘えて言葉が過ぎました。

 お許しくださいませ」

 祐里は、八千代を敬って頭を下げた。


「まぁ、よい。

 わしは、今夜から神事の業に西の祠に篭もるので、

 何かあれば、嫁の雪乃に相談しなさい。

 そなたは、明日から神事の業が終わるまで、

 優祐と一緒に少しずつ神の森を見て回っておくれ。

 神の森では、それぞれの長(おさ)たちが協力してくれるだろう」

 八千代は、上機嫌で、祐里と優祐を連れて、神の森から社へ戻る。


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