◇桜ものがたり◇

 光祐が食堂に入ると、美和子が席に着いたところだった。


 祐雫は、勉強を終えると、

 光祐の車の音を聞きつけて、食堂へ顔を出していた。


「父上さま、お帰りなさいませ。お疲れさまでございます」

 桜色の浴衣を着た祐雫は、祐里の面影を見せていた。


 
「ただいま、祐雫。秘書をしてくれている桑津美和子くんだよ」

 光祐は、祐雫の笑顔に寛いだものを感じる。


 美和子は、理知的な光祐の表情が、柔和で家庭的な表情に

 変化しているのに気付いた。


「こんばんは。祐雫でございます。

 父上さまがお世話をおかけしてございます」

 祐雫は、祐里のワンピースを着ている美和子に

 懐かしい想いを抱きながら、丁寧にお辞儀する。 


「こんばんは。祐雫さん。桜色の浴衣がお似合いですね」

 美和子は、祐雫の中に祐里の面影を感じた。


「ありがとうございます。

 今夜は、お泊まりになられるのでございましょう。

 祐雫のお部屋でご一緒いたしましょう」

 美和子は、お屋敷の優しい雰囲気に包まれて、

 不思議な気分を味わっていた。


 入社して以来、光祐に憧れて恋い焦がれていた自分の熱い想いが、

 穏やかなものに変わっていった。


< 233 / 284 >

この作品をシェア

pagetop