◇桜ものがたり◇

「間違いだなんて……。

 わたくしは、光祐さんと祐里さんを兄妹のように育てて参りました。

 光祐さんは、桜河家の後継ぎであることを自覚していますし、

 まして、あのように遠慮深い祐里さんが、

 そのような気になるとは思えません」

 奥さまは、兄妹のように仲が良い二人を見るにつけ、

 自分の育てた光祐さまと祐里を信じていた。


「祐里はともかく、光祐は、私に似て真っ直ぐな性格だ。

 私は、薫子と結婚すると子どもの時から決めていた。

 光祐とて、年々美しくなっていく祐里に、

 情が移らないとも限らないだろう」

 旦那さまは、榛様の申し出を聞くまで、

 未だ少女だと思っていた祐里の女としての成長を改めて感じていた。


「わたくしと旦那さまの場合は、生まれた時から父上さま方が許婚として

お約束されてございましたもの。

 ですから、わたくしは、物心ついてから、

 旦那さまだけをお慕い申し上げて参りました。

 でも、光祐さんは、兄として祐里さんと接して可愛がってございます。

 恋愛感情などあろうはずがございませんわ」

 奥さまは、娘時代に思いを馳せながら、

 旦那さまへの変わらぬ深い愛情を感じていた。

 物心ついた頃から、奥さまにとって旦那さまは、

 将来の伴侶として位置づけられ、

 兄の香太朗の友人でもあった旦那さまが遊びに来る度に

 愛情を育んでいったのだった。

< 26 / 284 >

この作品をシェア

pagetop