◇桜ものがたり◇

「杏子は、小さな頃から、お調子者だから、気にしなくていいよ。

 噂の姫に早速会えて光栄だな」

 柾彦は、女子学生との昼食会には全く興味がなく、

 誘われても断っていたが、今回は、幼馴染の杏子から、

「桜河のお屋敷の祐里さまもいらっしゃるのよ」

 と聞かされて、参加する事にしたのだった。


 柾彦は、自己主張ばかりの鼻持ちならないお嬢さま方が苦手だった。


 初めて見かけた図書館といい、今日といい、

 祐里は、控えめで可憐であった。


「何か悪い噂になってございますの」

 祐里は、心配顔で柾彦を見つめた。


 柾彦は、心配顔の祐里が可愛く思える。


「我が校では、車窓の美女で有名だよ。

 送迎の守りが固くて、誰も姫へ声をかける事が出来ないって」

 柾彦は、大袈裟な身振りを交えて話した。

 祐里の真横で、会話ができ、気分が舞い上がっていた。

「まぁ。私は、そのような御伽噺のお姫さまではございません」

 祐里は、慌てて否定すると恥ずかしげに俯く。


「その証拠に、ほら、何人も姫に視線が釘づけですよ」

 柾彦は、祐里の香りを感じ、さらに高揚した気分になる。


祐里は、柾彦に促される形で周囲を見回すと、

 それぞれの視線に穏やかな会釈を返した。


< 75 / 284 >

この作品をシェア

pagetop