小さな復讐
小さな復讐
 「遅い…」
 もう40分の遅刻だ。せっかくの2か月ぶりのデートだっていうのに。さっきから何回時計を見返しただろう。まだ春先の公園での待ち合わせ。だんだん体が冷えてきた。
 「香奈さーん!」
 「あれ? 昂太君? 偶然だね」
 職場恋愛中の香奈と悠基にとって、昂太は同じ部署の後輩だ。悠基によく懐いていて、はたから見ていてヤキモチを覚えるほど。よっぽど急いできたらしくすごい息切れだ。
 「香奈…さん、遅くな…ってすみません…! あの…悠基さんから頼まれて伝言を…」
 「伝言? なんで? ケータイに連絡くれればいいのに」
 「電源切れてるみたいだって…」
 「え!?」
 慌ててバッグから取り出してみたら、確かに画面は真っ暗。ガックリと力が抜けた。
 「ごめんね! 本当にごめんなさい! でも、どうして昂太君が?」
 「それが…その…。悠基さん、急に部長からゴルフに呼び出されたらしくて。
  それで僕に、行けないって伝えてくれって…。香奈さん、悠基さんを許して  あげてください。あと、お待たせしてすみませんでした。」
 「部長と…ゴルフ?」
 いつも部長の悪口言ってるくせに、こんな時ばっかり! バカにするにもほどがある。

 黙り込んでしまった香奈を気遣うように昂太は力強く言った。
 「悠基さん、いい人ですよ。ゼッタイ香奈さんにベタボレですって! 悠基さ  んみたいな男の彼女なんて、うらやましいくらいです!」
 「……そう? 優しいね、昂太君」
 こんなに私、傷ついてるよ? なんでいい人なんて簡単に言うの? ずっと待ってたのに結局来てくれなかったよ。それなのに私がうらやましいの? なんだか悔しくてたまらない。悠基は私より昂太君との関係を大事にしてるの?
 「壊したいな…」
 「え? なんですか、香奈さん」
 香奈は顔を上げると、いきなり昂太の唇に自分の唇を押し付けた。反射的に身を離そうとする昂太の首に腕を回し、長いキスを貪る。そして抵抗をしなくなった昂太からゆっくり離れると、微笑んだ。
 「ありがとう、昂太君。私も昂太君みたいないい後輩に懐かれてる悠基がうら  やましいよ。もし困ったときや寂しい時は…私を助けてね」
 呆然とする昂太を残して香奈は歩き出す。そして20歩ほど行ったところで振り向いた。
 「それとも…これから一緒にどこかに行く?」
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