ポケットに、鍵。
ポケットに、鍵。
 
あたしの密かな楽しみは、彼氏の部屋のお隣さんと話をすること。

とは言っても、交わすのはたったの二言三言で名字さえ教えてもらったことはないんだけど…。

それでもめげずに話しかけているのには、重大なわけがある。





あれは去年の真冬。

かなり冷え込んでいた夜のこと。


「ない。どこにもない…」


雪がちらつく中、あたしは彼氏の部屋の前で途方に暮れていた。

お鍋を作ろうと思って意気揚々と来たはいいものの、彼氏はあいにく留守で、あたしはもらったばかりの合鍵を忘れて。


「…あの、よかったら」

「へ?」

「帰ってくるまで暖まっていきませんか? 嫌じゃなければ」


そう言って、彼氏の部屋の前で半泣きのあたしを助けてくれたのがお隣さんだった。
 

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