ポケットに婚約指輪

ランチで警告


 昼休憩の時間になり、席を立つのと同時に刈谷先輩に呼び止められた。


「菫、外に行くの?」

「ええ。今日は江里子たちとランチの約束をしているので」


普通に返したつもりだけど刈谷先輩はどこかねっとりした視線を私に注ぎ続ける。


「ふうん、江里子と?」

「ええ。新婚旅行のお土産話を聞かせてもらうんです」

「へぇ。まあ楽しんできて」

「はあ」


なんだろう。なんかすっきりしない言い方だ。

待ち合わせはロビー。
資材部の方が下の階にあるから先に行っているかも知れない。

待たせていたら駄目だ、という思いから私はやや駆け足でエレベーターに向かった。



 案の定ロビーでは二人の女性がお財布を片手に立ち話をしている。

「久しぶり! 菫」

私を見つけて、華やかな笑顔を見せる江里子と、緩く笑っている久実。二人があんな本音を隠していたなんて、こんな風に私を迎える表情からは想像もつかない。

< 113 / 258 >

この作品をシェア

pagetop