ポケットに婚約指輪

「お、お風呂に入ってました」

「長風呂だね。俺さっき電話かけたの気づいてた?」

「は、はい」


胸がドキドキしてくる。
舞波さんの言葉でカチコチに固まっていた体の緊張が解れていく。


「あの」

「刈谷さんとの食事は無事終わった。俺がおごったから、お金はちゃんと返してもらって?」

「でも」

「ああ、お礼はいいよ。週末空いてるよね。朝からドライブに行かない?」

「わ、私とですか?」

「他に誰がいるの」


だって。
どうして私と?

こんなに冴えなくて自信も無くて弱い私に、里中さんはどうして構ってくれるの?


「私なんて、地味ですし」

「それは君が敢えて地味でいようとしてるからでしょ。ちょうどいいよ、その辺りも変えていこうか。嫌とは言わないよね。俺は君に貸しがあるわけだし」

「え、あ、その」

「土曜の10時に迎えに行くから住所を教えてくれる?」


問われるがままに住所を告げると、受話器越しに含み笑いが聞こえる。

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