ポケットに婚約指輪

*


「菫って、結婚間近の彼とはどうなってんの?」


久しぶりにランチに呼び出され、開口一番に江里子が言ったのはその言葉だ。
いつものコーヒーショップ。今日は久実がおらず、江里子と二人きりだ。


「えっ、あの」

「結婚、するんだよね。しないの?」

「あ、……あー、しない、かな」


あれが嘘だった……とは言えない。

詰め寄ってくる江里子にはどこか必死な様子がある。それは、舞波さんの浮気を疑っているから?

江里子は気づいているんだろうか。
そのきっかけとなった腕時計を私が前につけていたっていうこと。

とにかく、なるべく刺激しないようにしないと。
余計な波風は立てたくない。


「なによう、別れたの? 菫、今フリー?」

「えっと、あの」

「だったら資材部の子紹介してあげるよ? 結構格好いい子いるんだから」

「ちょ、待って。それはいい。いるの、一応。……彼氏は」


これはもう嘘じゃないよね?
一応、司さんとお付き合いするって事にはなったんだし。


「あ、そう。ならいいの。……ねぇ、菫」


ふう、と物憂げなため息を零して江里子が私を見る。
女の私でもドキッとしてしまうほど色っぽい顔をしていた。


「最近徹生と仕事してるんでしょ? 彼、なんか変わったこととか無い?」

「え? 無いと思うけど」

「そう。ならいい」


私に『浮気されてるかもしれない』と言わないのは彼女のプライドなんだろうか。


話を突っ込みすぎるとボロが出てきそうで、私も黙りがちになっていたからか、江里子との昼食はぎこちないまま終わっていった。



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