ポケットに婚約指輪

会議室の衝動


 廊下の賑やかさとは対照的に、会議室内は静まり返っていた。


「あ、悪い」


舞波さんが、私の肩に手を置きっぱなしなことにようやく気づき、慌てて手を離す。


「徹生」


江里子はつかつかと私たちの傍に近づいてくると、私の頬を勢いよく叩いた。
その力は強く、一瞬視界が暗闇になる。


「菫っ」


私の名前を呼んでふらついた体を支えたのは、隣にいた舞波さんだ。
だけど、呼んだのが名前の方だったのが余計状況を悪化させる。


「やっぱり……、菫と浮気してたの? 刈谷さんに言われても信じられなかった。でも、……思い出したの。あの時計、菫がつけてたことがあるって。ねぇ、どういうこと!」


詰め寄られて、舞波さんは息を飲んで押し黙った。江里子は私に向き直ると涙の滲んだ目でにらみつける。


「嘘つき。彼がいるって言ったくせに。結婚式の時につけてきた指輪、あれ徹生に買わせたの?」

「ち、違う。江里子聞いて」

「友達だと思ってたのに。ずっと私のこと騙してたんだ? 楽しい? 人の旦那奪うのって。影で私のこと笑ってたの?」

「違うの」

「何が違うの!」



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