ポケットに婚約指輪

今夜は帰さない


 タクシーに乗ってからもずっと、司さんは私の手を握り締めていてくれた。

運転手さんに見られるんじゃないかと冷や冷やしたけれど、彼は平然とした顔で流れる夜景を眺めている。

やがてタクシーが止まったのは、落ち着いた感じのマンションの前だ。


「ここが、司さんの家?」

「ああ、ここの5階」


入り口はオートロックで、エントランスは広い。
白い壁は汚れやすそうだけど、綺麗に磨かれている。ちゃんと管理人が居るタイプのマンションなんだろう。

司さんって実はお金持ちなの?


「す、凄いマンションですね。うちと大違い」


私のアパートなんて、一部屋とキッチンだけの本当にさもないような部屋だ。


「ちょっと親がうるさくてね。勝手に入らないようにセキュリティ厳しいところを選んだ」


どこか不機嫌そうに呟く。親との仲は悪い?
彼を知れば知るほど、今まで彼を知らな過ぎだった自分に気がついた。


「あの、司さん」

「後でキーロック解除方法教えるよ」

「はい」


でも。
本当に私で大丈夫なの?

私が思ってるより、ずっとずっと司さんは凄い。
仕事だって出来るし、しかもこんなお金もちだったなんて。


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