ポケットに婚約指輪


「……なんだって?」


語気も少し荒い。
もしかして、……怒らせた?

急に怖くなって、言葉が口から出なくなった。
うつむいて、ただギュッと指輪のケースを握り締める。


「どういう意味? 塚本さん」

「いえ。あの」

「面白いこと言うよね。その話詳しく聞かせてくれる?」


問い詰める調子が怖い。

里中さんってこんな人だったの?
凄く優しそうな印象を持ってたのに。


「そういえば、落ちた指輪も負け犬ジュエリーって言ってたよね。それは君の本心でもある訳だ」

「いえ、あの」


そうだけど。
でも、こんな風にからかわれるなら絶対に話したくない。


「も、もういいです。じゃあ私が捨てます。それでいいんでしょ?」

「いいよ。でもさっきの言葉の話はもっとしたいから。今度一緒に食事でも行こうよ」

「いや、あの、それは無理です」

「なんで? 彼氏は居ないんでしょ?」


意地悪な調子。
反論したいけど、ここまでバレている状態ではそれも無理。
何とかして断る手段はないかしら。
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