ポケットに婚約指輪

 とはいえ、化粧ポーチは取ってこれなかったので。
手持ちのハンカチで目元を拭う以外にできることはない。

途方にくれていると、ポンと化粧ポーチが投げられた。


「はい、アンタのカバンから取ってきたわよ?」

「……刈谷先輩」


先輩の表情は無表情に近く、それが余計恐ろしい。


「ありがとうございます」


頭を下げて、ポーチからファンデーションとアイライナーを取り出した。
でも指先が震えて上手く出来ない。

ああ、なんで沈黙しているの? 先輩。
それが一番怖いんですけど。


「目元、どうしたの? 泣いた?」

「えーっと、あの、コンタクトにごみが入って。ちょっと強烈に痛くって」


我ながら冴えてる言い訳だと思ったけど、刈谷先輩はまだ不服そうだ。


「……いつ里中くんと知り合いになったの?」

「え? それは。その。……実は昨日、落し物を拾ってもらって」


間違いではない。
色々端折っているけど間違ってはいない。


「それで、お礼を言いに行ったんです」

「ふうん。で? 電話番号を聞かれたって?」

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