ポケットに婚約指輪


里中さんは、差し出した私の携帯を受け取ると手際よく作業してしまった。


「俺のも入ってるから。じゃあ、明日」

「明日?」

「刈谷さんが言ってなかった? 三人で食事しようって」

「あ、そうでしたね」

「その後二人で抜けよう。じゃあ」

「え、あの?」


聞き返す前に、里中さんは踵を返して行ってしまった。

心臓がドキドキしている。
今の言葉が、何か淡いものを含んだ誘いのような気がして。


「……やっぱり自意識過剰かも」


誰に見られているわけでもないのに。
恥ずかしくて堪らなくなって、小走りに駅へと向かった。


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