Love Songを君に【Ansyalシリーズ TAKA編】


「改まらないでください。
 こちらこそ、学院に関係する生徒も教師も
 守るべき立場にいる存在で有りながら、
 今回、このような形で緋崎先生を苦しめてしまって
 申し訳ありません。

 臨時講師として採用した土岐先生ですが、
 先ほど辞職頂きました。

 学院理事メンバーそれぞれが管理する、
 町の至る所の防犯カメラが、
 緋崎先生をストーカーする彼の異常性を立証しました」



さらりと告げられた理事長の言葉。


私は理事長室に集まっていた、
財界の有名人たちの姿を思い返していた。


町中が神前悧羅学院の手の内ってこと?


「あの……私は?
 裕先生には、処分なしと伺ったのですが」

「そうですね。

 生徒である宮向井雪貴君と、
 恋人関係であったのは当人同士の自由ですが、
 社会的モラルにおいては、
 いささか意識が薄かったようですね。
 
 宮向井君と、宮向井君のご両親からの嘆願。

 そして緋崎先生のクラスの霧生音弥くんをはじめとする
 生徒たちが緋崎先生の処分を軽減するように、嘆願書を
 持ち込んできました。

 生徒たちにここまで思われる、人気の先生を
 処分するわけにはいきません。

 どうぞ、緋崎先生には彼らが卒業するまで
 しっかりと教師として
 活躍していただきたいと思っています」

 理事長はそうやって告げると、
 ゆっくりとホテルから出ていった。



雪貴のご両親や、
霧生君たちクラスの皆が、
私を守ってくれたんだ……。



そう思うと、嬉しくて
また涙腺が崩壊した。



日付が変わって暫くすると、
雪貴がホテルを訪ねてくる。


雪貴が来たのと同時に、
裕先生は席を外してくれた。




久しぶりに抱き合う私たち。



体はもっと、もっとと
雪貴を欲するけれど、
私の中で一つの決断があった。


雪貴が高校を卒業するまで、
もう体の関係は
我慢しようと思っていること。

今は生徒と教師であることに、
変わりないから。




立ったままお互いの体を
密着させ続けた後、
雪貴は真剣な眼差しで私に告げた。




「唯ちゃん、
 高校出たら結婚して欲しい。

 今はまだ唯ちゃんの生徒だけど、
 卒業したら……
 唯ちゃんと同じフィールドに立てると思う。

 留学中も思い通りに行かなくて、
 悩んでたけど、最後まで留学もやりきる。

 一年後の留学の集大成として、
 惣領さんがDTVTとの共演を企画してくれたんだ。

 その場所で、俺は兄貴の曲と俺の曲。

 今日の記者会見で演奏した曲を、ピアノ協奏曲として編曲して
 演奏する。
 
 だからその時は見届けに来てほしい」


突然告げられたプロポーズは、
雪貴の覚悟そのもので……
私はまた嬉しく涙腺が崩壊してしまった。


そんな私の涙を指先で掬い取りながら、
雪貴は逞しく続ける。


「唯ちゃん、返事は?」


雪貴の問いかけに、
ゆっくりと頷いた。 
 

翌日、私は
雪貴のマンションへと一緒に帰宅する。
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