いつか君に届け
僕が生まれたわけ
『いやっ!痛いっ!ご、ごめんなさい』

僕のお義父さんになった壮ちゃん事、結城壮一郎にいつものお仕置きをされている最中だ。壮ちゃんはリビングのソファーに腰掛けながらホームセンターで購入した楠の木を自分で削り加工したお仕置き道具で僕を壮ちゃんの膝に乗せお尻をむき出しにして叩く。

『慶太郎!何がごめんなさいなんだ?』

『痛い!えっーと、ルールを守らなかったから!いやっ!痛いよー!やだー!や、やめて!壮ちゃん!ごめんなさい!もうしない!』

『どのルールを守らなかったんだ?』

『22時以降は家にいること!痛いっ!もう無理!痛いよ!ごめんなさい!』

『ルールを破ればお尻が酷い目に合う事がわかっててお前は外出してたんだろ?それならそれなりの覚悟をして遊びに行ったんじゃないのか?コラ!暴れるな!違うのか?あわよくばバレないかもと言う確率に賭けた浅はかな行動か?どちらにしてもルールを破った以上お仕置きを免れない事はわかっているんだから我慢するんだな。しっかり反省しなさい』

『い、痛い!した!反省した!痛い!やだ!もうやめて!死んじゃう!うぎゃーいったぁーい!』

『俺は医者だぞ。死ぬかどうかぐらいわかる。尻を打ち据えたぐらいで死なないしちゃんとお前の尻の状態を観察しているから安心しろ!もう少ししたら手で叩いてやるよ』

『えっ!?まだ?もう痛いよ!やめて!反省したって言ってるのに!壮ちゃんなんか嫌いだ!っく、痛い!ひっく、やだ!うっく』

『嫌いで結構だがルールを守らなければ罰を受けるとお前も納得した上でちゃんと二人で決めたルールのはずなんだけどな。それにお前は反省なんかまだしちゃいないよ!これで何度目だと思ってるんだ?泣くぐらいならお仕置きをされるような事をしなければいいだけだろ。学習しないところが反省していない何よりの証拠だ。そろそろ尻がもう痛いだろうから手で叩いても効く頃だな。慶太郎!次にルールを破る時は自分の尻とよく相談してから行動しなさい。わかったか?』

『痛い!わかったからもうやだ!うっく、痛いよー!ひっく、ごめんなさい!』

『ほら!終わりだ!朝食の準備をするから尻を出したまま壁に向かって立っていなさい。なぜ痛い思いをしたのか自分の行動をよく反省するんだな。動くんじゃないぞ!反省とは自問自答を繰り返す事だ。お前はそれが足りないから同じ過ちを繰り返しているんだろ。手は頭の後ろに組め!何度もやっている事だろう!わかったのか?慶太郎!返事がないと言う事はまだ尻を叩かれないとわからないのかな?』

『嫌だ!っく、わかった!ひっく、うっく』

痛い。いくら壮ちゃんと2人きりでも尻を出して立たされるのは恥ずかしいしとにかく痛い。尻をさすったところで痛みが取れるわけではないけど気休めでもさすりたい。でも手を組まされて立たされてるから手を動かすとまた怒られるんだよな。壮ちゃんの養子になって3ヶ月が過ぎた。僕はもう今年中学生になったんだから尻を叩かれるのは嫌だ。いつまでも子供扱いしないでよ。壮ちゃんは僕が幼稚園の頃のベビーシッターだった。小学校に入学する頃から今まで会う事がなかったし壮ちゃんは僕が幼稚園児だった頃までの僕しか知らない。幼稚園の頃にも僕はお尻を出してお仕置きをされていたな。小さい頃の僕に壮ちゃんは道具を使う事なんてなかったけど中学生になった今、僕が反抗期に突入した事もあり壮ちゃんと決めたルールを破る事が増えてきたし壮ちゃんは最初に僕のお尻を壮ちゃん特製お仕置き棒で泣くぐらい叩いてから触れただけでも痛いお尻をとどめかのように手で何十発か叩いて僕を壁に向かって立たせて反省させる。昨日の夜は壮ちゃんが当直で留守だしおやすみの連絡が終わってから外に出たのになんで壮ちゃんはわかったんだろう?バレないと思ったんだけどな。あーいってぇ。しばらくはおとなしくしていよう。もうこれ以上お仕置きは食らいたくない。

『慶太郎!反省したのか?』

『した!しました!もう絶対にルールは守るから許して!許して下さい!』

『まだだな。もう少し立ってろ』

『はあ?なんでだよ!俺が反省したかしてないかなんてどうして壮ちゃんにわかるんだよ!俺の事がウザイんだった引き取らなきゃ良かったじゃん!どうせ俺なんか必要ない人間なんだろ!俺なんか生まなきゃ良かったんだ!あのクソババア!いってー!』

また言ってしまった。こんな事を言うと壮ちゃんのビンタが飛んでくる。そして何より壮ちゃんに哀しい顔をさせてしまう。抑えきれない感情を難しい思春期とも重なり僕自身が俺を持て余していた。自分がどうしたいのか?何に苛立つのか?何を欲しているのか?何もかもがわからないただ現実を受け入れるのをきっと僕は恐れていたんだ。

『慶太郎!二度と言うなと言ったはずだ。そんな言葉聞きたくない!ほら!壁の方を向いてろ!手は頭の後ろで組みなさい!このまま動くんじゃないぞ!』

慶太郎!生まれるって奇跡なんだよ。当然のように命は誕生するんじゃない。それにお前が五体満足でそして元気に生まれてきた事、生んでくれたお母さんも無事だった事すら当たり前なんかではないんだよ。いつかお前にも必ずわかる時が来るよ。お前の人生はこれからだよ。まだ12歳じゃないか。俺だって30歳を過ぎてから医者になったんだ。やっと自分の道を見つけたよ。お前にも見つけてほしいよ慶太郎。その前にお前の傷を俺はどれだけ癒してやれるだろうか?俺の愛情がお前に届く日が来るんだろうか?俺だってまだ自信なんてないよ。血の繋がりを超えた愛情って伝わるものなのか不安だ。それでも努力をしなければ何も始まらない。努力した分自信に繋がるんだと俺は思っているよ。慶太郎!お前がうまれた理由は必ずある。だってこの世には偶然などなく全て必然なんだと俺は思っているからね。その理由を見つけるのは他の誰でもないお前自身なんだよ。慶太郎。

『慶太郎!そろそろ反省出来たのかな?朝食がいつまでたっても食べられないんだけど』

『壮ちゃん。ごめんなさい。壮ちゃんに哀しい顔をさせてごめんなさい』

『俺に!なんだ?まあまだ難しいか。慶太郎!生まれるって当然の事じゃないんだよ。慶太郎が元気で無事に生まれた事は当たり前なんかじゃない。それだけは覚えておいてくれ。今はまだお前にはわからないだろうけどね。あとちゃんとルールは守りなさい!お前はルールを破ってお仕置きされたんだよ!わかってるのか?』

『うん。わかった』

『じゃあご飯食べよう。早くパンツを上げなさい。慶太郎!今日はどこへ行きたい?』

『えっとねー映画見て買い物したい!壮ちゃん!俺さー雑誌でかっこいい服見つけたんだよ!ねえー見て!これ!かっこいいでしょ?俺は絶対似合うよ!』

『まだまだ成長期真っ盛りですぐに着れなくなるのに君が選ぶ服は高いんだよ。そんなオシャレして君はどこへ行く気?好きな女の子でも出来たのか?』

『違うよ!俺は特定の女なんか作らない!』

『何が特定の女だ。10年早いよ。口だけは一丁前になったね。慶太郎は幼稚園の頃バレンタインデーのチョコレートを渡してくれた女の子に酷いこと言ったのを覚えてる?』

『知らない!覚えてない!』

『ほら!お前はなんでも都合が悪くなると知らない!覚えてない!ってとぼけるよね。チョコレートなんて嫌いだしかわいくない!ってアキちゃんて女の子に酷い事を言って泣かせたんだよ君は。男が女の子を泣かせるなんて酷いよね。相変わらずチョコレートは本当に好きじゃないみたいだけど女の子には優しく思いやりを持って接しなさい!慶太郎くん!わかってるのか?それにまだ中学生なんだから健全なお付き合いをするならしてくださいよ!聞いてるのか?慶太郎!』

『聞いてる!わかったよ!んで買ってくれるの?』

『そのサラダをちゃんと全部食べたら買ってやるよ!好き嫌いするんじゃない!』

『わかったよ!』

本当にわかっているのか?女の子に興味を持つ事は普通なんだけど無責任な事は辞めてくれよ。未成年のお前が責任なんか取れないんだからね。命の重さを知りなさい慶太郎。わからないのに興味や好奇心だけで女の子を傷つけるんじゃないよ。慶太郎は愛想良くないのに意外とモテるんだよな。やっぱり子供の恋愛レベルって所詮顔だけか?まあ君は小さい頃からモテていたよね。バレンタインのチョコレートをいっぱい貰ってチョコレートが大嫌いなもんだから意地悪されてるんだって泣くお前をどうやってなだめるか苦労したよ。意地悪なんかじゃないんだけどね。自分の嫌いな物を渡されてそう思ったんだよな。せっかく貰った物を捨てさせるわけにもいかないし食べ物を粗末に扱うべきじゃないから君にどう説明するべきか俺は悩んだよ。だいたい君は好き嫌いが多過ぎる。君のお母さんは綺麗な人だったよね。お前は君のお母さんに顔だけはよく似ているよ。君が生まれた時お母さんは君を初めて抱いて喜んでいたはずなんだけどね。喜んでいたと思いたい。慶太郎がいつか父親になる時が来たら出産に立会ってごらん。生まれるって事がとても大変な事であり命が神秘的である事を君にしっかりと感じてとってほしい。
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