月夜の翡翠と貴方【番外集】


ふう、と一息つくと、小さな子供が籠にパンを詰めて、にこにこと笑いながら歩いているのが見えた。

懐かしい光景に目を細めながら、私はぽつりと呟く。


「…連れてきてくれて、ありがとう」


同じように辺りを見渡していたルトが、驚いたようにこちらへ振り返った。

目が合うと、優しく微笑まれる。

「どういたしまして。お嬢さん、今の気分は?」

どこか楽しげな彼に合わせ、私は一度ぐるりと周辺を見渡したあと、ふ、と笑った。


「とても、いい感じ」


私の言葉に、ルトはにっこりと笑った。








「き、来て下さったのですか…!」


劇場の裏口の戸を叩くと、出迎えてくれたのは相変わらずの様子をした、ラサバだった。

「何も連絡なしで、悪い。こっちの用事が片付いたから、来てみたんだ」

おっさん久しぶり、とルトが笑うと、ラサバは早くもその瞳に涙をにじませた。



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