月夜の翡翠と貴方【番外集】


「私が言ったことのなかに、彼女にとって気に食わないことがあったんでしょうね。突然怒り始めて、なだめようとしたら更に怒って…」

何がなんだかわからぬうちに、ミラゼはどこかへ行ってしまったと笑う彼に、今度はこちらが呆気に取られた。

…この男と、初めて会ったときと同じものを感じた。

仕事のために召使いをしていた彼と、奴隷としてやってきた私。

彼は今と同じように敬語を使い、私をまるで客人のように扱った。

そのときに感じた、信じれないという気持ち。

…やはりこの男は、変わっている。

「…イビヤさんは、怒らなかったんですか?」

「ええ、全く。むしろ、可愛いなあと思っていました」

か、可愛い?

私がまたも眉を寄せると、「だって、そう思いませんか」と彼は心底楽しそうに笑った。


「私の発した何気ない一言に、赤い顔をして怒るんですよ。いつもすました顔をしているのに」


私は、なんだか彼の知ってはならない一面を見てしまったような気がした。

きっと、この優しい笑顔の裏に、とんでもないものを隠しているのだろうとは思っていたが…


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