月夜の翡翠と貴方【番外集】


ルトは上を見るようにして「そーだなぁ…」と言うと、再び目をつぶった。


「…音、かな」


彼がそう言った途端、辺りの静けさがより一層強くなった気がした。

私も同じように、目をつぶる。

色んな音が、聞こえてきた。


「…集中して。目が使えないなら、耳を使え。相手の足音を聞き逃すな」


草が、風に揺れる。

それに合わせて、草と草が擦れる。

地面に落ちている小さな石が、転がる。

私の後ろで、虫が微かに鳴いた。


「……わかった。意識、してみる」

目を開けて見上げると、ルトはにっこりと笑って「うん」と言った。

「でも、無茶はするなよ?まずいと思ったら俺のとこに来るか、叫べ」

すぐ行くから、と私のご主人様は言ってくれるけれど。

…いつまでも、頼っては駄目。

しっかりと役に立てるよう、戦力になるようにしなければ。

今回は仕事ではないけれど、私にとってはほぼ本番に近い練習だ。

ミューザでミラゼにナイフの扱いや動き方などを教わって。

その後、私はナイフの他に鍛冶屋で短剣を買った。

女にも扱いやすい、細く軽い造りをしているものだ。

これを上手く使いこなせるように、練習しなければならない。



< 285 / 455 >

この作品をシェア

pagetop