副社長は溺愛御曹司
けれど実際入った長男は、その陽気な性格と巧みな弁舌でたちまち周囲を虜にし、あっさり修行を終えてアメリカの大学でMBAをとり、今ではコンサルタントとしてこの会社にかかわっている。

そして次男のヤマトさんは、CEOのDNAを最もストレートに受け継ぐ理工学部出身のプログラマとして入社し、その技術で名を上げ、人懐こい性格で得た味方を武器に派閥争いにも真っ向から乗り込んで、実力で今の座を勝ちとってみせた。

歳の離れた三男は今年の春に入社してきて、爽やかな風貌に似合わない辛辣なキャラで、これまた独特の地位を確立している。


CEOの遺伝だろう、みんな背が高いという以外、外見も性格も、三者三様、まったく違う。

なんとも多彩な三兄弟なのだ。


兄弟同士は、ああして会社でも家族として会話をするけれど、CEOに対しては一社員として敬語で接する。

それも彼らの掟であり、けじめをつけたいという思いの表れでもあるんだと思う。



私は終業時刻が近づいていたので、ヤマトさんの部屋をノックし、残った仕事がないか尋ねた。

執務用のPCの隣に置いた、自作のPCに向かっていたヤマトさんは、平気、とディスプレイから顔を離して言うと、ちょっと待って、とふと思い出したようにデスクの引き出しを探った。



「これ、あげる」



いきなりほうられた何かを慌てて両手で受けとめて、それが可愛らしくラッピングされたドラジェであることに気がついた。



「会食先でもらったんだ、おつかれさま」



気をつけてね、と笑って、うきうきとディスプレイに目を戻す。

ああして少しの空き時間に、社内で制作しているサービスのプログラムに手を入れるのが、楽しくて仕方ないらしい。

見た目は完全にスポーツマンなのになあ。


気をつけてね。

毎日必ず、彼は業務の最後に、そう言ってくれる。

優しい優しい、私のヴァイス。


私は、いただきます、とドラジェを握りしめて、お先に失礼します、と部屋をあとにした。



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