副社長は溺愛御曹司
少しおさまったように思えていた、ヤマトさんの怒りが、再び爆発した。

思わず身をすくめると、勢いよく両肩をつかまれて、のぞきこまれる。



「そういうつもりだった?」

「わた、私は、違います」



間近に見る、ヤマトさんの気迫に押されて、ぶるぶると首を振る。

だって、私は、好きだって言ったじゃない。

次があるとも思ってなかったし、ミーハーな思いも少しはあったけど、断じていい加減な気持ちじゃ、なかった。

そんなの、当たり前でしょ。



じゃあ、とヤマトさんが言いかけた時。

ふいにすぐ近くで、声がした。



はっとそちらを向くと、社屋の裏口から、人が出てくる。

とっさに私とヤマトさんは顔を見あわせて、口をつぐんだ。

身動きをとらない限り、暗いから、こちらの存在には気づかないだろう。


息を殺すようにして、人影を見つめる。

ふたり連れだ。

こちらに来たら、どうしよう。


けれどその人影は、裏口からすぐの場所で、足をとめて、動かなくなった。

あれ…?


なんだか、ちょっと、雰囲気が、と思っていると、ヤマトさんが、おい…とつかんだままの私の肩を、軽く揺すった。

見あげると、私と同様、かなりうろたえている様子の顔と目が合う。


そうだよね、あそこで、どう見ても抱きあって、キスをしてるの。



延大さんと、久良子さんだ。




< 106 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop