副社長は溺愛御曹司

「おふたりって…」

「仲がいいとは、思ってたけど」



あーびっくりした、とヤマトさんが上着をばたばたさせつつ、ネクタイをくつろげながら言う。

本当に、びっくりした。

見知った人同士の、ああいうシーンというのは、かなり衝撃的なものがある。

走ったせいだけではなく、ドキドキと打つ胸を意識しながらヤマトさんを見あげると、はたと目が合った。


その視線が、対処に困ったように少し揺れて、けれど最後には、ふたりで笑いだしてしまう。

久しぶりのヤマトさんの笑い声は、泣きたいくらい私を安心させた。



「どこまで話したっけ」

「私は、その場限りのつもりじゃ、ありませんでしたよ、というところまでです」



なんだこの仕切り直し、と思いつつも、息を整えながら、正確に答えてみた。

それだ、それ、とヤマトさんが、ちょっと眉をひそめて、私を見る。



「俺が、そのつもりだったみたいな言いかたがさ、気になるんだよな」

「え?」

「まさか、そう思ってた?」



…そう、ですね。

そういうことになります。


そう言いはしなかったけど、私の顔で、考えがわかったらしく、また不機嫌な顔つきになると、こちらをにらんできた。



「俺、好きだって、言ったよね」



えっ、と思わず声を漏らすと、ヤマトさんも、えっ、とつぶやいて目を見開いた。



「本気でしたか」



あぜんとしてヤマトさんを見ると、彼も、ショックを受けたような顔で私を見返す。



「…信じてなかったの」

「だって」

「だって、なんだよ」



まずい、また怒りだした。

< 108 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop