副社長は溺愛御曹司
役員朝礼に行くため、4人の秘書が、全員席を立つ。

ちょうどそこに、髪を乾かし終えたヤマトさんが入ってきた。

ありがと、と言いながら、ドライヤーを私のデスクに置く。



「今日からだよね、次の人」

「はい、午後から業務に合流する予定です」



スムーズに採用できて、よかったね、と改めてふたりで胸をなでおろす。



「さみしくない?」

「楽しみのほうが、大きいです」

「じゃあ、俺だけか」



残念、といたずらっぽく笑うのを、目顔でたしなめた。


さみしくないわけがないでしょう。

でも、それでいいんです。

離れるのがさみしくない職場なんて、それこそさみしすぎる。



ヤマトさんのネクタイは、春らしいペールブルーで。

新しい生活への、期待と希望にふくれる私を、後押ししてくれるような、軽やかな色。


CEOの執務室へ向かおうと、デスクを回ると、ヤマトさんが道を空けてくれた。

見あげると、柔らかい微笑みが、にこりと見返す。



フランクで気さくで、役員というより、部活の先輩か何かみたいな雰囲気で、だけどちょっと、それだけでもなくて。

快活で、優しくて、少し意地の悪い時も、あって。


だけどいつだって、私に。

進む勇気と、笑う力をくれる。







離れたって、ずっとずっと、私だけの。








極上の、ヴァイス・プレジデント。



















Fin.

――Thank you!




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