副社長は溺愛御曹司

どういうこと?



異変に気がついたのは、父であるCEOと社長、随行する秘書たちとロビーに集まり。

チェックアウト手続きのため、神谷にカードキーを渡して、おはよ、と声をかけた時だった。


彼女は、妙によそよそしいというか、明らかに、ゆうべ一緒になんて、寝ませんでしたよね、という態度をとってみせたのだ。


チェックアウトカウンターに行く背中を見送りながら、首をひねる。

照れてるにしちゃ、冷静すぎないか?



疑惑が確信に変わったのは、新幹線に乗りこんだ時だ。



「私、今日は、別の席に座らせていただきますね」



はあ?

そんなことを、優秀な秘書らしい、媚びないけど可憐な微笑みで言われて。

けれど何か言い返す前に、神谷はさっさと自分の席へと歩いていってしまった。


ちょっと待てよ。

なんだよ、その態度。



仕方なくひとりで、仕事をする気にもなれないまま、指定の座席につき。

窓枠にほおづえをつきながら、面白くない気分で、流れる朝の景色を眺めた。


照れてるわけじゃない。

じゃあ、なんだ。


怒ってる? なんで?

したくなかったわけは、ないだろ、あの様子で。

そのくらい、うぬぼれても、いいよね?


気に入らなかった?

よくなかった?


少し勝手に遊びすぎたかな、と反省しつつも、満足させられなかったはずはない、という妙な自負もあり。

じゃあ、なんだ、とまた頭に戻ってしまった。
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