副社長は溺愛御曹司
1階のリビングや客間は、ほとんどの家具を持っていってしまったため、がらんとして、声がやたら響く。

けれど、この合宿施設のような雰囲気がヤマトたちは好きで。

こうして集まる時も、自分たちの部屋は使わず、ここに布団を敷いて、適当に転がって寝るのが常だった。



片方のビニール袋を、ほぼからっぽの冷蔵庫にそのままつっこんで、もう片方はリビングへ持ちこんだ。

最初に持ち寄ったぶんは、もう飲んでしまったのだ。

3人とも、飲んでも飲んでもちっとも酔わない体質で、だけどそれなりに、酒好きだ。



「酔っ払うまではいかなくても、気持ちよくはなるもんな」



長男の言葉に、残りのふたりも、うんうんとうなずいた。



「次の買い出しは、じゃんけん、やめようぜ」

「延兄の弱さは、確率でいったら、奇跡に近いよね」

「抽選とかくじとか当てるのも、決まって兄貴だし、平等だよな」



くだらない話をしながら、3人で囲んだビニール袋の中から、めいめいが缶を選び、好き勝手に開ける。



「カズは、休めそうか、夏休み」

「ダメだね、初日は全員休むけど、あとはモニター漬けだよ」



特にがっかりしているようでもなく、弟が言うのに、そうだろうな、とうなずき返した。

一応、全社いっせいの夏季休業日なる日程はあるものの、開発部門にとっては、そんなもの、ないも同然だ。


特に、弟が担当しているのは、コンシューマソフトなため、販売前に、ハードメーカーのチェックが入る。

これが、もうアホかというくらい厳しく、鵜の目鷹の目でバグを見つけてくるので、そのチェック期間は、生きた心地がしない。

致命的なバグが見つかったら、即、発売延期だ。

競合との発売日のバランスも、宣伝の投入もおじゃんだ。

まあ、この会社のソフトは基本ビジネス層や法人向けなので、そこまで混乱やクレームに発展はしないけれど。
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