副社長は溺愛御曹司

「どうかしたのか?」

「ううん…」



なんでもない…と弱々しく答えて、兄を残したまま、我ながら心もとない足取りで執務室へ戻った。


デスクに突っ伏して、頭を抱える。

なにこれ。


顔どころか、身体まで熱くなってくるのを感じた。

思春期か、と自分にあきれながら、ほてった耳を、手で覆う。


そういうこと?

俺、神谷のこと。


つまり、そういうこと?



そういうのって、高校生くらいまでの話なんだと、思っていた。

好きとか、そんなの、しばらく前から、考えたこともない。


ありか、なしか。

狙うか、やめるか。

落とせそうか、無理そうか。


いつの間にか、女の子の区分って、そういう感じになっていた。


だって、もういい歳なんだし。

好きな子、なんて響き、恥ずかしすぎる。



早くいつもの自分に戻らないと、コピーを終えた神谷が、書類を届けに来ちゃうよ、とあせるけれど。

むしろそのあせりが手伝って、身体中で沸きたつ血は、いっこうに引く気配を見せない。

どうしよう、と途方に暮れるあまり、顔も上げることができなかった。



もう、これは、それしか考えられない。

どう考えたって、そうとしか思えない。



たぶん、神谷は。





俺の、今、好きな子。







< 180 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop