副社長は溺愛御曹司
前をとめながら、デスクを回ってドアに向かうと、素早く先に立って歩いていた神谷が、ふと振り返った。

襟元に手を伸ばされ、何かなと思っていると、役員章が曲がっていたらしく、それを直される。


間近で視線が絡んで、また笑った。

やっぱり、笑ってくれるのが、一番いい。

そんなことをのんきに考えながら、神谷が開けてくれるドアをくぐる。



あと少しの間、俺だけの秘書でいてね。

そのあとも、俺だけのものでいてね。


それで、毎日、笑ってね。



「先日、都内のレセプションでお会いした方です」

「デバッグの受注を提案してくれた人だろ、大丈夫、覚えてるよ」



応接室に向かいながら復習すると、半歩うしろをついてくる神谷が、すばらしいです、とほめてくれた。

いい気分で微笑み返すと、小さく拍手をくれる。

その仕草が、可愛い。



鋭いくせに、ぼんやりしてて。

おっとりしてるわりに、怒りっぽくて。

頼もしいのに、たまに危なっかしくて。


笑ってくれると、たまらなく嬉しい。



ねえ、いつか、信じてね。

何度だって言うから、信じてね。



神谷はね。

いつまでだって、俺だけの。



どうしようもないくらい好きで、好きで、好きな。





たったひとりの。



特別な、女の子なんだよ。















Fin.




< 195 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop