副社長は溺愛御曹司

役員朝礼は、毎朝CEOの執務室で行われる。

ほんの数分の簡単な執務報告なので、デスクの前に立ったまま行う。

基本的に報告は役員本人がするため、私たち秘書は、隅のほうで耳だけ澄ましているのみだ。



「それは理解してます。けど緩衝材として、一つ条項を挟むくらいは、できるはずだ」

「あえてしないのが、意図なんだよ」



ヤマトさんの言葉に、杉さんがやんわりと返事をした。

例の契約準備書の件が杉さんからの報告にのぼった時、ヤマトさんがそれについて意見を述べたのだった。

あくまで対等提携を進めたがるヤマトさんに対し、杉さんは提携先に、心理上の上手をとりたがった。



「ヤマトくんの言いぶんもわかるが。あくまでうちの商品に向こうの技術者を借りるというスタンスを、崩したくない」

「技術を借りるということは、その商品の根幹をシェアするってことだ。対等にするべきです」

「技術じゃない、技術“者”を借りるんだ」

「技術は、技術者が持ってるんですよ。彼らは単なる、頭数ではありません」



ヤマトさんの声は、いたって冷静に聞こえるけれど、その中に苛立ちと、少し悲しみが混ざっているのが、わかる。

眉根を寄せた険しい顔で、ヤマトさんが続けた。



「あそこは、規模もスピリットもうちと近い。経営統合も視野に入れるべきです。その時に、今回のことが響くのは」

「堤副社長」



CEOの重々しい声が響いた。

彼は、ヤマトさんをヤマトと呼ばない、たぶん社内で唯一の存在だ。


はっと言葉をとめ、ヤマトさんがCEOを見る。



「その話は、あとに願いたい」

「…申し訳ありません」



悔しそうに唇を噛んで、ヤマトさんが黙った。

< 59 / 210 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop