副社長は溺愛御曹司
先方の、ソフトウェア関連の事業部長補佐の女性は、東京に用事がある時は必ず私たちのところに寄ってくれる、おなじみさんだ。

久良子さん、和華さんの3人で訪れると、会議室に招いてお茶を出してくれた。



「CEOのご子息ですよね? よく似てらっしゃいますね」

「えっ、そうでしょうか」



あの厳格なCEOと?

私が首をひねると、久良子さんが、そうかもしれないわね、と笑った。



「最近、急に風格が出てきたから。もともと骨格なんかは、3人の中で一番似てるものね」

「3人?」

「堤を真ん中に、上と下に兄弟がいて、全員関連部門で働いているんです」



和華さんの言葉がきっかけになり、4人ですっかり世間話の体になってしまった。


風格かあ。

確かに就任直後のヤマトさんは、まだ半分くらい現場の人間という感じで、立場を持て余しているようなところがあった。

もう他社に移ってしまった前任の副社長がどっしり構えたタイプだったから、余計にそう見えるのかもと思っていたんだけど。


4月に就任して、今12月に入ったところだから、丸8ヶ月。

彼なりに、自分のできることを見極めたり、周囲との関係をつくったり、必死に走ってきたんだろうなあと想像できた。


そこまで考えて、笑ってしまう。

比喩でもなんでもなく、彼はいつだって、本当に走ってる。





二日間をフルに使って、20社近くの同業他社が集まるこの会合は。

毎年持ち回りで幹事を務める企業が、業界の現状や海外の事例、最先端の技術等を紹介するプレゼンに始まり。

各社が自社の方針や新技術、開発のスキームなどを報告して、業界の活性化につなげるというのが大目的だ。

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