Blue Note ― ブルーノート
勢いよくドアを開け、少年をベットに寝かせる。 服を脱がせ、体を調べたが外傷は見当たらない。


どうやら、あの血液はすべて吐血によるものらしい。だとすると、原因は体の内部にある。


切開しなければ。


ごくりと唾を飲み込む。アノンの家は一部が診療所になっているため設備は揃っている、問題は自分自身だ。


やれるか?


目を閉じ、深呼吸をしながら頭の中で自分に問う。


やるしかない


アノンは直ぐさま着替えると、長らくしまってあった医療機器を引っ張り出し、少年に全身麻酔をかけた。


麻酔が効くのを待ち、少年の胸部にメスを入れる。



「これは……」



心臓に、何かの機械が取り付けられていた。
生れつき心臓の弱い患者が補助機を付ける場合があるが、それとは全く異なるものだった。



原因は恐らくこの機械にあるだろう。

かなり前に取り付けられていたものなのか、いくつもの線が心臓と複雑に絡み合っていた。



なんとか取り外せた頃には、10時をまわっていた。



手術服を脱ぎ、崩れるように椅子に座る。

机の上に頬を乗せ、シャーレに入った例の機械をピンセットでつまみ上げる。


小指の第一間接ほどの大きさの、四角い箱型の機械から無数の線が出ていた。



一体何の機械なのか、見当もつかなかった。
機械はまだ作動しているのか、黄緑色のランプが点滅を繰り返している。


それから、この少年の身元も謎に包まれたままだ。 所持品はノート一冊、これもまたボロい布きれに包まれていた。



もうひとつ、少年の左の鎖骨(さこつ)から肩にかけて「No.0」という文字が彫られていた。



身なりからして、ダウンタウンの住民だろうか? だが、何故そんな人間がわざわざこんな都会の路地裏で血まみれになって倒れていたのだろうか?



謎だらけだ。



とにかく、少年の一命は取り留めた。
今はそれだけで、何もかもが終わったような気がする。



激しい睡魔が襲ってくる。


気がつくと、アノンは枕がわりに机に置いた自分の腕の中に顔を埋めて眠っていた。





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