春秋恋語り


「子どもができたって本当なの? いつ?」


「いつって言われてもそんなの答えられないよ。いつできたかなんて、ふつう聞く?」


「そうじゃなくて、私が聞きたいのはね」


「とにかくそういうことだから」


「そういうことだからって、そんなに簡単な問題じゃないでしょう!」


「わかってるよ。だから早く籍を入れたほうがいいと思ってる。
とにかくひとつずつ片付けていくから、まずはお父さんたちに報告しようと思ったんだ」


「だから、ちょっと待ちなさいって」



やいのやいのと言い続けるお袋の追及を上手くかわし、僕は用意していた ”今後の予定” を口にした。

すでに千晶の両親にも会ったと伝えると、それに関してはお袋も安心した顔を見せた。

安心した顔へ、近いうちに両方の親を引き合わせるつもりだからよろしく頼むと伝え、僕のペースで話を推し進めた。
 


「そうか。まぁ、こうなったのも結果的には良かったんじゃないか?」


「えっ、えぇ、そうね。そうかもね。オメデタなら先方さんもあきらめるしかないでしょう」



おじさんの言葉に、やっとここまできたかと肩の荷を下ろした気分だった。

だが、これからが勝負だ。 

この4人にウソを突き通し、千晶にはこうするしかなかったのだと納得してもらわなくてはならない。

妊娠発覚の事態により深雪さんとの見合い話は即時に破綻するため、従姉妹である千晶が小野寺さんの家族と気まずくなるとも考えられる。

その前に小野寺さんを訪ねて 「実は以前から千晶さんと交際しておりました」 と、僕と千晶とのかかわりを話し、土下座覚悟で頭をさげて許してもらうしかない。

僕がケリをつけなければ…… 

そんなことを考えていると、親父が思いもかけないことを言いだした。



「明日にでも脩平と一緒に小野寺さんにお会いしてくるよ。
息子を気に入って望んでくださったんだ、お目にかかって申し訳ありませんとお伝えしたほうがいいだろう。
小野寺さんは千晶さんがお世話になった親戚だから、きちんとお詫びを申し上げなくては。
脩平の不始末だが、このままでは千晶さんの立場が可愛そうだ。まったく、とんだことをしでかしてくれたものだ」



隣りに座っていた親父から、いきなりゲンコツが飛んできて頭を思いっきり小突かれた。

「いたっ」 と声をだすと、これまで見たこともない恐ろしい目で睨まれた。

いわゆる優等生だった僕は、親を困らせたこともなければ、したたかに怒られたこともなかった。

兄弟が親に怒られるのを見ながら、なんて要領が悪いのだろう計画性がないからそうなるんだと、冷静に分析していたのだが、この歳になって怒られるとは……小っ恥ずかしい限りだ。

しかし、どうしてそこまで小野寺さんにへりくだる必要があるのかと思うが、見合いを断る理由を妊娠にしてしまった以上、僕に弁解の余地はなかった。



「それなら私らが行くよ。元はと言えば私らが持ちかけた話だからね。
最後まで面倒を見させてもらえないだろうか。なぁ、どんなもんかな」


「そうよね。私とこの人と脩平君で行ってくるわ。
千晶さんのためにも、小野寺さんには筋を通した方がいいでしょうから。
どお? 脩平君もそれでいいわね?」



おじさんとおばさんの申し出に、僕はお世話になりますと頭を下げるほかなく、千晶には 「ごめん……」 といろんな意味で謝った。

僕に何か言いたげだったが、今は何も言うなというように首を振った。


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