春秋恋語り


同学年の女子部員につかまった千晶はここでも質問攻めにあい、答えにくい質問があると僕に助けを求めてきた。

「脩平さん」 と、名前を呼んで聞いてくるものだから 「名前で呼ぶのって新鮮。新婚さんはいいわねぇ」 とたちまち冷やかされることになる。

僕も冷やかされるだけでなく 「これから子育てか。幼稚園の運動会で親も走るから、体力をつけておけよ」 などのアドバイスももらった。



「チャイルドシート選びは大事だぞ。スポーツカーとか車種によっては装着が難しいものもある。田代の車は?」


「セダンだよ」


高級車の部類に入る車名を口にすると、「そんな車に乗ってるのか! 許せん」 とやっかみと羨望の声が飛んできたが、機能性で選ぶならこれ、デザイン重視ならこういうものがあるぞと具体的な機種を提示してくる、ありがたい助言もあった。

なんだかんだと話しは続き、話題には事欠かない同窓会となっていた。



吹部の連中の輪の中にいた僕に、会場の奥から手を上げて合図をくれた人がいた。

生徒会本部で一緒だった先輩で、懐かしい顔に気がつき駆け寄った。



「田代、元気だったか」


「お久しぶりです。御木本さんも元気そうですね」



御木本さんは一年先輩で生徒会で一緒に活動した。

野球部に所属していたが、足の速さから陸上部の補助部員もこなす器用な人で、確か短距離の記録も持っている当時かなり有名な先輩でもあった。



「新婚だって? おめでとう。めでたいこと続きだそうじゃないか」


「ありがとうございます。先輩まで冷やかすんですか」 
 

「いや、俺もそうだから。と言っても二度目だけどな」


「じゃぁ、先輩のところもオメデタですか」


「ウチはまだだよ。田代はいま地元にいるのか」


「3年くらいはいる予定です、そのあとはどこに飛ばされるかわかりませんけど。先輩はまだ大阪ですか?」


「俺も地元に帰ってきたんだが、去年転勤になってしばらく東京だ」



御木本さんとは社会人になってから再会した。

僕が大阪本社勤務の頃、先輩の会社の近くでばったり会ったことから何度か飲みに行った。


社会では一歳の差などどうということはないが、学校の先輩後輩においては一学年の違いは大きな差となる。

先輩はいつまでも先輩であり、後輩はいつまでたっても後輩なのだ。



「休みはいつまでですか? 近いうちに飲みませんか。なんなら今夜でも」


「これから嫁さんの実家に行くことになってるんだ。明日は東京に帰る。せっかく誘ってくれたのに悪いな」



当時僕にとって御木本さんは特別な存在だった。

人をまとめる能力に長けていて、抜群のリーダーシップがあった。

かと言って馴れ合いの仲間意識を押し出すようなことはなく、同じ歳の友人たちにはない個性に強烈に惹かれたものだ。

卒業後何年経っても会って話をしたい人で、この再会を喜んでいたのだが……

次回の帰省では必ず会おうと約束して、先に帰る先輩を見送るために玄関まで行くことにした。

奥さんが車で迎えに来るらしく、僕に紹介してくれると言う。

そっちも紹介しろと言われて、仲間に囲まれていた千晶を呼んで一緒に会場を出た。 


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