キスマーク


どこをどうすれば、その生意気で甘いフェイスを持つ彼を私の手で溺れさせる事が出来るのか、一番感じる場所を捉えられるのか―…


素肌で触れ合い絡み合う時間は、お互いの事を知り尽くしているのに、



「シオリ、さん―…」



と、私の身体に乗り、私の名前を口にする彼自体の事はよく知らない。


そして彼も、



「ヒロ……待って、ダメっ」



力強く瞳を閉じて彼の名前を呼び、快楽の絶頂の寸前に喘ぐ、私自身の事はよく知らないはず。


例えば彼について。


フルネームじゃなく“ヒロ”という呼び名しか知らないし、本名かどうかも怪しかったり。


“ヒロ”について知っていること。


携帯の番号。住んでる場所はこの1Kのマンション。“年齢は二十一歳で医大生”と聞いた覚えはあるけど―…


“知ってること”パッと浮かぶのはこの位の情報。



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