ダイス



「もし、新井が戻ってきたら離婚するか」


その言葉に雪音は漸く顔を上げた。


その顔は無表情に近く、何を考えているのかやはり分からない。


「新井君は……戻ってこない」


雪音は呟くように言った。


その声には諦めと絶望が混じっているように思えた。


人を一人殺して逃亡した男を直向きに待つ程純粋な女ではないということか。


それとも新井が戻ってくるはずないという確信があるのか。


そして結局、雪音の言葉は深水に対しての答えにはなっていなかった。


深水は溜め息を吐き、夕飯が並ぶのをただ待った。







.
< 124 / 265 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop