ダイス



ざわ、と強い風が吹き、近くにあった木が揺れ、緑の葉が音を鳴らす。


口に出来ないその音はまるで自分を責めるようで気分が悪い。


紗江子は乱れる気持ちを抑えた。


あたしは悪いことなんてしてないじゃない。こうして、墓参りに訪れるだけ優しい人間だと思うけど?


これらを口に出せないのは何故か。


夏の終わりを告げる蝉の鳴き声は脳を掻き乱す。


見詰められているわけでも、睨まれているわけでもないのに足を止めてしまった。


掻き乱れた脳では、辺りから漂う線香の匂いがスーツにつくのでは、と見当違いなことを考え出す始末だ。


昼を過ぎた太陽は更に強さを増している。


誠の視線は紗江子を見ているようで、違う何かを見ていた。


いつもそう。昔からそうだった。



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