ダイス



「何処か痛くしてないですか?」


痛い、という声を上げたのは彼のほうなのにそう訊いてきた。


「ええ、大丈夫です」


紗江子は少し視線を逸らして答えた。


「そう。ならよかった」


彼は癖のある声でそう言ってから、じゃあ、と言ってその場を立ち去った。


彼が横切る瞬間、何処かで嗅いだことのある匂いが鼻腔に届いたがその正体を掴むことは出来なかった。






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