ダイス



かつかつ、と自分の鳴らすヒールの音で気持ちを保つ。


背筋を伸ばし、真っ直ぐに足を出す。


出来るだけ気品が漂うように、出来る知能的に見えるように、出来るだけ美人に見えるように。


それだけを考えて歩く。


「午後からなんですか?」


後少しで目的地に着く、というところで声を掛けられた。


「芦原」


そこには紗江子と同じ班の芦原蓮が缶コーヒーを手にしている。


恐らく昼飯から戻ってきたところなのだろう。


刑事にしては些かなラフな服装は彼の軽薄に感じる性格とよくマッチしている。


だが軽薄に感じるだけで蓮は決して軽薄なわけではなく、むしろ真面目過ぎるところがある。


彼のそんなところが紗江子は気に入っていて、後輩の中では一番可愛がっていた。


「お墓参り」


紗江子が答えると蓮は暢気にお盆ですもんね、と言った。



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