ダイス




「でも、正直助かった。カッコつけてみたけど、今月生活きついんだ」


笑いながら暴露するその姿を可愛いと思った。


大人の男を可愛いと思ったことは今までなかった。


自分が身を置く組織にはそういった男はまずいない。


「ねぇ、よかったらまた、飯食いにいかない?」


明良は人混みのなか、ぴたりと足を止めた。


夜も大分ふけてきたというのに人通りはまだ多い。


行き交う人々は気にしないふうに上手く明良を避けたり、あからさまに迷惑そうな顔をしたりしている。


それでも紗江子もそれにつられて足を止めた。


嫌だ、という理由は何処にもない。


寧ろまた一緒に食事をしたいとまではいかずとも、してもいいかな、という程度の気持ちはある。


まだ知り合ったはがりなのに。


いや、知り合ったばかりだからこそ、か。


「……いいわよ」


紗江子がそう答えると、明良はにこりと嬉しそうに笑った。




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