冷たいアナタの愛し方
ガゼルの母エイダは、真っ青な顔で気を失っているオリビアを見た途端いきなり踵を返してルーサーと衝突した。

が、なりふり構わずガゼルに詰め寄って両手で首をぎゅうぎゅう絞めてまたルーサーをぽかんとさせる。


「お前!女に手を出したのかい!?女だけにはあれだけ暴力はするんじゃないって言ったろ!?」


「ち、違う違う違う!母ちゃん違うって!あの女はこいつの連れ!俺は助けた側!」


茶色の長い巻き毛を揺らして振り向いたエイダは、ルーサーをまたじっと見つめて切れ長の瞳を光らせた。


「息子に代を譲る前、あたしはこの子をローレンで見たことがある。この子は…王女だね」


「…僕もオリビアが王女であることをさっき知ったんだ。この子とは7年前知り合って…王女だとは知らなかった」


ガゼルとエイダが顔を見合わせる。

ルーサーが嘘を言っているようなそぶりはなく、しきりに隣室をちらちら見ている姿は心配で仕方がないといった感じに見えた。


「で?戦になる前に助け出しに来たってとこか?」


「そうだ。なんとか救い出したんだが……あの細い手で戦ったらしくて返り血が…」


お嬢様が剣を握れるわけがない。

ガゼルもエイダもそう思ったが、見る限りではオリビアは怪我のひとつもしていない。

ますます疑問が募ったが、エイダは無言のまま2階に上がってしばらくすると戻ってきた。

その手には、オリビアの足首まで隠れそうな丈の白いワンピース。


「あたしが若い頃着てたやつだ。ついでに風呂にも入れてくるから絶対見るんじゃないよ。見たら息子だとしても殺すからね」


「わ、わかったって」


母には頭が上がらないガゼルは、ルーサーに酒瓶を突き出してソファに寝転がると、リラックスした表情でにやりと笑った。


「惚れてんのか?」


「…違う。彼女はいずれジェラールが王になった時に妃として迎え入れようとしていた子で…」


「ああ、馬鹿丸出しのウェルシュが足元に及ばん位功績を挙げてた末弟だな。そいつはどうした?はぐれたのか?」


「まだローレンに居るかもしれない。オリビアの目が覚めたら1度ローレンに戻る」


その間エイダはオリビアをひょいと抱き上げてバスルームに向かい、てきぱきとネグリジェや下着を脱がせてシャワーをかけてやっていた。


「…あんたも苦労したね」


女が剣を持つにはそれなりの理由がある。

オリビアに一体どんな理由があったのか――エイダは優しい手つきでオリビアの身体を洗ってやった。
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