「同じ空の下で…」

「…なぁ。」

その顔に一瞬だけ釘づけになっていた私は、ハッとして気が付く。

「…ん?なに?」

「…自分を抑えるって…難しいな。」

瞬が目線を移さず、そのまま一点を見つめて呟いた。

"それなら、私の隣なんかに座らなきゃいい"

本心と裏腹な想いが私の脳裏を過る。


すぐそこにあるのに、触れてはいけない…。

いいや、いけない訳じゃないが、これ以上触れてはいけない、超えてはいけない境界線がある。

…ただそれだけの事。


私は何も言わず、隣に居る瞬に微笑みかけた。




それは、私も同じ気持ちだよ、瞬。


今、あなたに触れる事が出来る筈なのに…安易に触れてはいけない…。

私も、自分を抑えてる。

抱きしめれる距離なのに…触れない。


結局、行ったり来たりの…はっきりしない私たちの関係。












「…やっぱり俺、自分の本心に従おうかな…。」




タケルが、ビールジョッキを片手に、今日集まった皆への挨拶をしている。


全くその言葉が耳に入らず、私はただ、瞬のか細い声を聞きとる事に集中していた。

タケルの姿が乾杯のポーズに変化する…。



「分かった。お互い、それなりの覚悟をして…」




"互いの本心に従おう"




………その瞬間に私の中の瞬へのモヤモヤが吹っ飛んだ気がした。




「かんぱ~い!」


その声と同時に、私は瞬とグラスを突き合わせ、乾杯をした。



そう、それが、


私たち2人が出した『答え』だった。



< 164 / 646 >

この作品をシェア

pagetop